タイでは、無線通信機が人々の健康に影響をおよぼす事を避けるため "NTC TS 5001 - 2550" で、人間の健康に対する電磁波使用の安全基準と測定、暴露の制限を規定しています。この規定は電磁波(9kHz - 300GHz)を発するすべての通信機器が対象です。ここでは、規定の内容を説明します。
適用範囲
この規定は、無線機器が発する電磁波の人体への暴露制限をさだめています。目的は、無線機器が発生する電磁波から人間の健康を保護する指標とするためです。この規定は、医療処置としての電磁放射の人間への曝露は対象としていません。
対象となる人の種類
この規定では、電磁波に暴露される人々を以下の2つのグループに分類しています。
無線従事者
職業または定期的な任務の一環として電磁波に暴露される人々です。暴露について認識していて、潜在的なリスクに対するトレーニングを受けています。このグループの人は、作業や機器の使用時に適切な注意を払うと仮定されています。
一般市民
無線従事者に該当しない一般市民です。暴露についての知識は乏しく、潜在的なリスクを認識していません。このグループの人は、暴露を減らすための対策をとらないと仮定されるため、より厳しい暴露制限が適用されます。
無線通信機器のカテゴリ
無線通信機器は、電磁波放射要素とユーザーの体との距離に基づいて、以下の3つのカテゴリに分類されます。
Type 1
通常使用時において、電磁放射要素がユーザーの頭部付近に位置しているか、またはユーザーの体から20センチメートル未満の位置にある装置です。特定の電磁波の吸収率 (SAR) が定められた制限値を超えないよう、測定によって評価しなければなりません。
このカテゴリには、ポータブル機器やハンドヘルド機器、身体に装着する機器が含まれます。
Type 2
通常使用時の電磁放射要素がユーザーの体から少なくとも20センチメートル以上の位置にある装置です。このカテゴリの装置は、SARの評価要件には該当しませんが、磁場強度を測定して基準値を超えないことを確認する必要があります。
このカテゴリには、車両に搭載された携帯端末などが含まれます。
Type 3
固定した場所に設置されて、広範囲に電磁波を発する装置です。このカテゴリの装置は、SARの評価要件には該当しませんが、磁場強度を測定して基準値を超えないことを評価する必要があります。
このカテゴリには、無線通信事業で使用される固定局や基地局が含まれます。
放射制限
電磁波の暴露量に対する制限は、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)によって作成および発行された「時間変化する電界、磁界及び電磁界による暴露を制限するためのICNIRPガイドライン(300 GHzまで)1998年版」に示されている制限に基づいています。各制限量を以下に示します
Type 1 装置の場合
周波数帯100 kHzから10 GHzのSARは、無線従事者と一般市民それぞれ以下の値を超えてはなりません。
無線従事者のSAR
条件 | SAR (W/kg) |
---|---|
全身の平均値 | 0.4 |
頭部と体幹の平均値 | 10 |
手足の平均値 | 20 |
一般市民のSAR
条件 | SAR (W/kg) |
---|---|
全身の平均値 | 0.08 |
頭部と体幹の平均値 | 2 |
手足の平均値 | 4 |
注記:
SARの値は、6分間の平均値です
全身のSARの値は、体全体の吸収電力を体重で割った値です
特定部位のSARは同じ部位の10グラム当たりの平均値で、立方体形状での計測結果です
Type 2 装置の場合
電磁場強度(EMF)が、無線従事者と一般市民それぞれ以下の値を超えてはなりません。
無線従事者のEMF
周波数範囲 | 電場強度 (V/m) | 磁場強度 (H/m) | 平面波の等価電力密度 (W/m2) |
---|---|---|---|
9kHz - 65 kHz | 610 | 24.4 | - |
65kHz - 1MHz | 610 | 1.6 / f | - |
1MHz - 10MHz | 610 / f | 1.6 / f | - |
10MHz - 400MHz | 61 | 0.16 | 10 |
400MHz - 2GHz | 3 x √f | 0.008 x √f | f / 40 |
2GHz - 300GHz | 137 | 0.36 | 50 |
一般市民のEMF
周波数範囲 | 電場強度 (V/m) | 磁場強度 (A/m) | 平面波の等価電力密度 (W/m2) |
---|---|---|---|
9kHz - 150kHz | 87 | 5 | - |
150kHz - 1MHz | 87 | 0.73 / f | - |
1MHz - 10MHz | 87 / √f | 0.73 / f | - |
10MHz - 400MHz | 28 | 0.073 | 2 |
400MHz - 2GHz | 1.375 x √f | 0.0037 x √f | f / 200 |
2GHz - 300GHz | 61 | 0.16 | 100 |
注記:
表中の f は周波数を表し、単位はMHzです。
100kHz - 10GHz の周波数範囲における測定値は、6分間の平均値を表しています。
10GHz以上周波数における測定値は、68 / (f の1.05乗) 分の期間の平均値で、f はGHz単位の測定周波数です。
無線従事者と一般市民それぞれの電場強度および磁場強度の制限値を示すチャートを図1と図2にしめします。
図1: 電場強度の制限
図2: 磁場強度の制限
複数の放射源から電磁波暴露を受ける場合
1つ以上の放射源から同時に異なる周波数の電磁波放射を暴露する場合、全体的な暴露量の程度を測定して、定められたEMF基準を遵守しているかどうかを確認するために、以下の計算式が適用されます。
SARの測定方式
SARの測定は、以下に示す標準的な方式に従う必要があります。
IEC 62209-1
EN 50361
IEEE STD 1528
EMFの測定方式
EMFの測定または計算は、以下に示す標準的な方式に従う必要があります。
IEC 61566
ITU-T Recommendation K.52
ITU-T Recommendation K.61
ANSI/IEEE C95.3
関連 : タイの電波法とNBTC無線認証の取得
コメント